第107回:ジェット戦闘機のノズルは何故開閉するのか

コンバージェンス・ダイバージェンス・ノズル



エアショーや、最近の戦闘機ゲームなどにおいて、エンジンのノズルが拡大・収縮する様子を見たことがある人は少なくないと思います。上の写真はF-15のF100エンジンで、左は着陸時のアイドル状態、右は離陸時における最大推力を発揮している状態でのものです。
このような、可変断面積機構を有するノズルをコンバージェンス・ダイバージェンス・ノズルと言い、略してコン・ダイ・ノズルとも言います。(ココは試験に出ます)
F-15だけではなく、殆ど全てのジェット戦闘機がコンダイノズルを有していますが、コンダイノズルはなんのために付いているのでしょうか。
今回はコン・ダイノズルの役割について、単純にわかりやすく書いてみたいと思います。

圧力x流速2


(図はwikipediaより拝借)
通常のジェットエンジンは、エアインテークから流入した空気をまずコンプレッサー(compressor)で圧力を高め(副次的に温度も)、燃焼室(combustion chanber)で空気流を燃焼させ、急速に高温・高速となった空気流はタービン(turbine)を通過することによってコンプレッサーを駆動する軸出力を与え、最後にノズル(Nozzle)から排出し、その反作用によって推力を得るようになっています。
このときに得られる推力は、空気流の圧力と流速2に比例する関数で表すことができます。すなわち、圧力を可能な限り流速に変換してやれば、同じエネルギーでもより高い推力を得ることができるのです。
コン・ダイノズルの役割は、空気流の圧力を流速に変換する役割を有しています。

皆さんは蛇口のバルブを一切操作せず、ホースから勢いよく水を放出するにはどのような方法を取るでしょうか。恐らく、多くの人はホースの先端部(ノズル)を指で僅かに潰してやることにより、それを実現できることをご存じと思います。
このとき、ホースのノズル部はまさにコン・ダイノズルと全く同じ役割をこなしており、水流の圧力を流速に変換しています。反動(=推力)が強くなるのは、流速の二乗に比例するためなのです。
ジェットエンジンの場合も全く同じで、ノズルを収縮させることにより空気流をより高速で排気することができます。つまり、スロットルを押し込み、燃焼室で発生した空気流の圧力が高ければ高いほど、よりノズルを絞って流速に変換することが出来ますから、コン・ダイノズルもより収縮するのです。

先端が狭くなる機構をコンバージェンス、逆に広がる機構をダイバージェンスと言います。ダイバージェンスの場合は逆に流速が圧力に変換されます。
「狭くなると圧力が低下し流速が増し、広くなると圧力が上昇し流速が低下する」という現象は、我々一般人には直感的に理解し難い原理ですが、飛行機においてはエアインテークやベンチュリー管などにおいても全く同じ原理が用いられています。

最初の実用戦闘機として知られるMe262のユモ109-004エンジンはコン・ダイ・ノズルは有していませんでしたが、説明板の9番のコーンが伸縮することにより断面積を可変させ、コン・ダイ・ノズルと全く同じ役割を担いました。フルスロットル時にはコーンが最も外に飛び出した状態になります。
当時の米英のジェット戦闘機(ミーティア(笑)とか、P-59(爆笑))には無い優れた特徴でした。

じゃあ旅客機は何故コン・ダイ・ノズルが無いのか!

戦闘機は「戦闘」という極めて特殊な用途を目的とした飛行機であり、一度の飛行でスロットルを押し込んだり下げたり、何度もの操作を行います。
一方、通常の旅客機は最大推力を発揮するのは離陸時のみであり、飛行の大部分を占める巡航時は殆ど一定の推力を保っています。つまり、旅客機の場合は巡航時にあわせて固定のコンバージェンスさえ持っていれば、基本的に事足りるのです。離着陸時は多少非効率になりますが、無駄な可変機構を減らすことができれば、生産工数もメンテナンスに当てる時間も費用も少なくて済みます。

例外のアフターバーナー


アフターバーナーとは、ノズルの直前において空気流を再燃焼(リヒート)させる装置であり、非常に高温で体積の膨張した空気流を生成します。コンバージェンスにより、より高い速度の排気を得られるように思えますが、問題なのはアフターバーナーは燃焼室とタービンの下流に位置していると言うことです。
つまりアフターバーナーによって生じた空気流は、燃焼室からタービンを経由してアフターバーナーにまで達する空気流を逆に押し戻してしまうのです。最悪の場合タービンの回転が維持できなくなり、コンプレッサーストール(サージング)を引き起こしてエンジンの破壊に至ります。
よって、アフターバーナー付きジェットエンジンにはコン・ダイ・ノズルが必須になり、断面積を広くしてアフターバーナーの空気流を速やかに排出しなくてはなりません。

また、流体とは不思議なもので、超音速まで加速されるとコンバージェンスによって逆に圧力が増し速度が低下し、ダイバージェンスによって圧力が低下して速度が増すという全く逆の現象が発生します。排気が超音速に達するアフターバーナーではコンバージェンスはかえって速度を低下させてしまいます。


上の写真はどちらもTu-144です。
左の初期型はアフターバーナー付きターボファンエンジンを搭載しており、コン・ダイ・ノズルを有しています。
右の後期型ではアフターバーナーが排除されたターボジェットエンジンに換装されたため、固定されたコンバージェンスノズルとなっています。


コンコルドはアフターバーナー付きターボジェットエンジンですから、当然コン・ダイ・ノズルとなっています。
ノズルの先端は逆噴射装置。


(更新日:2010年6月21日)


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