第114回:なぜ戦闘機のエンジン音はうるさいのか

ジェット戦闘機の爆音の大部分はジェット排気音


なぜ戦闘機のエンジン音はうるさいのでしょうか。
結論から書きますと、排気ジェットの速度が高いからであると言えます。
ジェットエンジンがまき散らす騒音の種類はいくつかありますが、その最大要因が排気口から噴出される空気流、排気ジェットです。
アイドル時などにおいては排気ジェットの騒音はそれほど気になりませんが、もっとも大きな推力を必要とする離陸時においては「ゴオオーーーバリバリバリバリ!!!」と全てを巻き込むような爆音で空間が満たされるかのようです。
一方、旅客機のエンジンはどうでしょう。旅客機のエンジンもうるさいと言えばうるさいですが、戦闘機のエンジンとと同等の推力を有するものであっても、それほど騒音は大きくありません。
今回は「ジェット騒音」の差がなぜ生まれているのかを書いてみたいと思います。

排気ジェットの騒音は流速の八乗に比例

さて、以前「飛行機のお話」においてジェット戦闘機のノズルは何故開閉するのかというタイトルのコラムを書きました。一言で要約するならば、戦闘機のノズルは排気ジェットの圧力を流速に変換する役割を担い、推力を向上させる。ということでした。
排気ジェットの流速が増すと推力が向上します。そのためできるだけ高速で噴射した方が有利になります。ところが流速が増すにつれ騒音は指数関数的に増大します。 指数関数的に増大...具体的にどの程度だと思いますか?二乗?いえ、そんなレベルではありません。

排気ジェットの騒音は流速の八乗に比例します。

すなわち流速が2倍になれば騒音は256倍です。人間の聴覚は鈍感なので256倍になっても感覚的には数倍にしか感じられませんが、それにしても八乗に比例は大きいですね。

旅客機はもとより、戦闘機であっても騒音は望ましくありません。どんなド田舎の隔離基地でも周りに人家は存在しますし、騒音はできる限り低いにこしたことはありません。
騒音を下げること自体は簡単です。排気ジェットの流速の八乗に比例なのですから、排気ジェットを僅かでも減速してやれば劇的に減少します。ただ、限られた滑走路長で加速し離陸するにはある程度の推力が必要となりますから、あまりパワーの無いエンジンを装備するわけにはいきません。戦闘機なら空戦性能にも影響を及ぼしてしまいます。
そのため、ジェットエンジンには高い推力を維持したまま低い騒音を実現するという、困難な性能が要求されることになります。ジェット戦闘機ならまだしも、旅客機では環境への低負荷もまた飛行性能と同等のレベルで重要な要素です。

低騒音・高推力のエンジンを実現する


さて、騒音を下げるには排気ジェットの流速を下げてやれば良いわけですが、推力は維持しなくてはなりません。こうした場合、空気流量を増加させてやることで推力の低下を補うことができます。
ジェット排気と空気流量の関係は以下のような簡単な式で表わすことができます。

正味推力 = 空気流量 × (排気速度 − 飛行速度)
(正味推力とは機体の推進に実効的な推力を意味します)

考えを単純にするため離陸滑走時、すなわち飛行速度はゼロとするならば、排気速度を減らした分、空気流量を増加させてやれば同じだけの推力が得られる。ということがわかります。

排気速度を遅くし空気流量を大きくした静かなエンジンは、現在の飛行機のトレンドとなっています。
排気ジェットからタービンによって動力を抽出し、巨大なファンを回転させることによって、大きな空気流量を実現する一般的に高バイパス比ターボファンエンジンと呼んでいます。
ファンを通過した空気の大部分は燃焼させずにそのまま排気するのですから、誤解を恐れずに言ってしまえば、高バイパス比ターボファン搭載機は一種のプロペラ機である。と言っても良いでしょう。

排気の流速を減らし空気流量を増やす傾向は今後も一層進むと見られており、例えば三菱航空機 MRJで実用化される見込みのギヤードターボファンもまた、大きなファンをゆっくり回転させることによって、高い推力と低い騒音を実現します。
大型旅客機でも同様です。例えばボーイング787のエンジンであるGEnxやトレント1000は機体の太さにくらべて気持ち悪い(笑)ほど大口径なエンジンです。


現代の最新ジェットエンジンの騒音レベルは、第一世代のジェットエンジン1/100のレベルを実現しています。デシベルで表わすならば20dB減となります。
(デシベルは人間の感覚に近いものとするため対数となっています)

超音速戦闘機はそうはいかない!

「じゃあ、ジェット戦闘機も大きなエンジンを搭載すれば騒音問題解決じゃん!」
そうは問屋がおろしません。
大口径の高バイパス比ターボファンエンジンは戦闘機に使用することができません。まずはそのサイズです。できるだけスリムな機体で大推力を実現するには、空気流量を上げることに限界があり、どうしても流速を高めなくてはなりません。そして最大の要因はジェット戦闘機には超音速飛行が求められるという点にあります。

正味推力 = 空気流量 × (排気速度 − 飛行速度)

先ほどと同じ式ですが、今回は飛行速度に注目してみましょう。推力は排気速度から飛行速度を引いた値と、空気流量の積となりますから、高速飛行すればするほど推力は低下することを意味します。つまり排気速度と同じ飛行速度になった時点でそのエンジンの推力はゼロとなり、ただの重しに成り下がってしまいます(発電や油圧への動力供給はしてますが)。多くの高バイパス比ターボファンエンジンはおおむね亜音速で噴出されますから、超音速飛行には適していないことが分かります。
超音速飛行するには、ジェット排気の流速をそれ以上に高くしてやらなくてはならないのです。これが高バイパス比ターボファンエンジンが超音速ジェット戦闘機に使えない最大の理由です。
多くの戦闘機がアフターバーナーによって流速を大幅に加速してやらなければ音速を突破できないのも、この理由によります。アフターバーナーを使用すると桁違いに爆音が大きくなりますよね。
反対に旅客機は速度の無い離陸時にのみ最大推力を求められますから、高バイパス比ターボファンはまことに都合のよいエンジンであると言えます。

近年、旅客機とは反対に戦闘機のバイパス比は低下傾向にあります。アフターバーナーを使用しない「超音速巡航」なる能力が一躍脚光を浴びているためです。F-22の超音速巡航能力はマッハ1.82とも言われていますから、相当の速度で噴出していることは間違いありません。

聞き比べてみよう

意外に思えるかもしれませんが、F-2とボーイング737 NGは同じエンジンを搭載しています。
ジェネラルエレクトリックF110とCFM56エンジンは、燃焼室やタービンなどにおいて共通の設計をもった姉妹製品であり、そして推力もほぼ同等です。
●F110-GE-129 (F-16、F-15、F-2用エンジン)
地上静止推力129kN(アフターバーナー) 空気流量 122.5kg/秒 バイパス比0.76

●CFM56-7B27 (F110エンジンと共通のコア設計を有する B737 NG用エンジン)
地上静止推力121kN 空気流量354.7kg/秒 バイパス比5.1

両機の騒音の違い、ぜひ空港などにおいて聞き比べてみてください。F110はとても大きな排気音が特徴的ですが、CFM56エンジン騒音のそれはファンの騒音が大きな比率を占めていることがよく分かる筈です。

ついでに燃費のお話

ターボファンエンジンはバイパス比が高く、空気流量が多いエンジンほど燃費に優れています。
排気からタービンで動力を抽出してファンを回すという構造は一見すると無駄に思えるかもしれません。が、
燃料消費率はジェット排気の流速の二乗に比例して悪化してゆきます。
タービンやファンの効率や機械損失を考慮しても、空気流量を増やした方が遙かに燃費が改善されるのです。

(更新日:2012年3月02日)




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