プリウスならアフターバーナー2秒分の燃料で東京>大阪間を走る。
ウェブサーフィン(死語)している最中、たまたまこんなサイトを見かけました。
戦闘機って燃費いいんでしょうか。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1334701348
なんか凄い質問ですが、ベストアンサーはもっと凄い。
>簡単にぶっちゃけていうと、あの爆音戦闘機が1時間飛ぶ為のガソリンで、
>今時のエコカーなら東京から大阪まで行けちゃう
なんだかジェット戦闘機がガソリンで動いてる(本当は灯油です。恐らく軽油でも動く)と思いこんでる回答がベストアンサー(他の答えもそうだけど)ってどうなの?このQ
& Aのシステム。
戦闘機が1時間巡航すれば福岡まで行けるんですが。クルマの燃費って戦闘機以下なんでしょうか(笑)
私の愛車プリウスなら満タン50リットルで東京大阪間を往復できる自信があります。
ま、それはともかくとして、アカウントの無い私は回答を付けることもできませんし、よくよく考えてみれば子供同士の話題に大人が割り込んでいくようで、大人げないような気がしたので(笑)、飛行機のお話でちょっと戦闘機の燃費について書いてみたいと思います。
戦闘機の例として我々にとって最も身近で世界最強(異論は認めない)のF-15J/DJを見てみましょう。
F-15は1秒間で2.7キログラムの燃料を消費する。
F-15Jはアフターバーナー付き低バイパス比ターボファンエンジンであるF100-IHI-100、もしくはF100-IHI-220Eを双発で搭載しています。
F100-IHI-220Eのエンジンスペックを見てみましょう。
(Turbofan and Turbojet Engines Database Handbookより引用)
何コレ!!意味わかんねえええええ!!!
って感じかもしれませんが、全然難しいことは書いてありません。順番を追えば小学生でも理解できます。落ち着いて下から5行目を見てみましょう。ここにエンジンの燃費が記されています。
SFCssl = 2.07 10-5 (kg/s)/N コレです。コレ。この数値です。
SFCとは燃料消費率という意味で、エンジンの効率の良さを表す性能値です。何の略かは忘れました。グーグル先生かウィキペたんにでも聞いてください。
この数値が意味することは1N(ニュートン)の推力を、1秒間発するのに0.0000207kg(20.7mg)の燃料を消費する。と言うことです。
N(ニュートン)はアレです。戦闘機のスペックが書かれた本なんかでよく使われているエンジン推力の単位です。よくk(キロ)とセットで「kN」みたいな形で用いられています(少なくとも私はそう書いてます)。
SFCの2行上にTssl = 65255 Nとあります。これはF100-IHI-220Eエンジンのミリタリー推力。即ちアフターバーナーを用いない最大の推力です。本では65.3kNと書かれている事が多いですね。
ではこの数字を基に、エンジン1基あたりのミリタリー推力を1秒間発するのに燃焼される燃料量を求めてみましょう。
0.0000207kg/s X 65255N = 1.3507785kg/s
でました!ね、小学生でも理解できるでしょう?
つまり、F100-IHI-220Eエンジンは、ミリタリー推力を発する場合、毎秒1.35kgの燃料を消費します。18リットル(約14.4kg)の灯油缶を僅か11秒で使い切ってしまいます。
そうそう、忘れてはいけません。F-15Jは双発機です。と言うことは...
F-15Jはミリタリー推力で飛行する際、毎秒2.7kgの燃料を消費します。
えー2010年1月現在灯油18リットル(約14.4kg)の市販価格はだいたい1300円ぐらいのようです。
つまり、F-15Jは5秒に1枚「英世」を、50秒に1枚「諭吉」を燃やしながら飛んでるのです。
(シンガポール ケロシン価格(ジェット燃料)は1kg約36円なので、だいたい半額となります)
毎秒英世をばらまくアフターバーナー! 8分半でタンクが空っぽに。
(Turbofan and Turbojet Engines Database Handbookより再掲)
先ほどのSFCsslの右に SFCABssl = 5.95 10-5 (kg/s)/Nという数値が有ります。
これは、アフターバーナー使用時における燃料消費率です。1Nあたり1秒間に0.0000595kg(59.5mg)の燃料を燃やすという意味です。ミリタリー推力では2.07 10-5 (kg/s)/Nでしたから、燃料消費率が3倍も悪化しています。
嫌な予感しかしません。2基分の燃料消費量を求めてみましょう。
アフターバーナー推力は104310Nですから...。
0.0000595kg/s X 104310N X 2基 = 12.41289 kg/s
1秒で12.41kg燃焼。燃料消費量が5倍に。毎秒英世1枚!にパワーアップしました\(^o^)/
(原油高のピーク時には0.3秒で英世1枚でした...)
F-15Jの機内燃料タンク容量は7836リットル=約6300kgですから
MAXアフターバーナーだと僅か8分半で全燃料を使い切る計算になります。
これから、航空祭においてF-15Jが強烈な機動飛行しているのを見たときは、「ああ、この1秒にも英世を燃やしながら飛んでるんだな。」と、思いながら眺めましょう。「どうだ明るくなつたろう」の戦争成金もびっくりです。
でも、アフターバーナーを焚くだけで10万人が楽しめるなら安いモンだとも思いませんか?
※ただし、地上静止時に限る。
これらは地上静止時に限った話です。燃料消費率SFCにしても推力Tにもsslという記号が付いてました。これは地上静止時(static
sea level)を意味します。
バイパス比の高いターボファンエンジンは燃費に優れますが、高速であればあるほど、そして高空を飛行すればするほど発生推力が低下します。つまり、本に載っかってるカタログスペックの推力は出せなくなります。高速・高空を高速で飛行したい場合はバイパス比を低くするか、いっそのことバイパス比をゼロに=ターボジェットエンジンを使用すると、より高い推力を発生させることが出来るようになります。
ですのでターボファンエンジンを装備するF-15Jが高空を高速で飛行中の場合、スロットルレバーをミリタリー推力位置まで押し込んでも65.3kNを発揮することは出来ません。詳しい数値は分かりませんが、40,000ftのM0.8ともなると、恐らく半分まで低下すると思われます。また、燃料消費率も変化します。
アフターバーナーは通常の燃焼室で燃料を燃やすよりも高度・速度による推力低下が少ないため、多くの戦闘機では超音速飛行する場合はアフターバーナーを必要とします。それでも8分半で燃料を使い切ってしまうことは無いでしょう。たぶん。
つまり、この動画みたいな超超超超超超超超超超強力な石油ファンヒーターとしてエンジンを使用すると、スペック通りに灯油18リットル缶を僅か2秒(F-16は単発ですからね)で燃やし尽くしてしまいます。
(関係無いけどアイドルからA/B点火まで僅か4秒。凄い。)
適当に家庭用石油ファンヒーターの燃料消費量をググったところ、0.000069g/秒というスペックを拾いました。すなわち、F100-IHI-220Eエンジンは、家庭用ファンヒーターの10万倍もの燃料を燃やすことが出来ます。どんな燃焼密度だよ...。ラディッツ襲来時の魔貫光殺砲と、フルパワーフリーザ様のデスボールを比べるようなものです。
もう、データが一桁間違ってても誰も気がつきそうに有りません。というか100万倍も1万倍も「体感」は変わりません(笑)。戦闘機のエンジンを「英世」「諭吉」や「プリウス」や「ファンヒーター」で考えるのはやめましょう...。アレは我々日常からはとても想像のつかない燃焼器です。
(F100-IHI-220E 1基約10億円で石油ファンヒーター10万倍のパワーが貴方のものに!)
このページの情報、過激派のエセ平和団体のサイトで使われそうな気がしてきた。
(更新日:2010年1月29日)
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