第59回:訓練で強い戦闘機

○×という戦闘機が△◇戦闘機を訓練で撃墜した。…って?


「強い戦闘機は何か?」 というのはアマチュアの戦闘機ファンの中では永遠の命題です。
「強い戦闘機」ということ自体は、もっと大きな視点、軍事的に考えますと無意味な評価ですが、飛行機のお話でも散々取り上げてきました。今回はその流れをくむ内容となっています。

アメリカ空軍のAIM-9Mを装備したF-16と、R-73を装備したドイツ空軍のMiG-29がDACTを行ったところ、MiG-29が圧勝し無類の強さを見せつけた。

マレーシアのF/A-18とMiG-29がDACTを行ったところ、MiG-29は目視外視程においてF/A-18を圧倒した。

アメリカ空軍のF-15とインド空軍のSu-30がDACTを行ったところ、Su-30は圧勝し、F-15は大損害を受けた。アメリカ国防省はこの事実に激怒した。

アメリカ空軍のF-15とアメリカ海軍のF-14のパイロットが非公式にDACTをおこない、F-14はF-15を「撃墜」した。


...etc

この手の例は腐るほど存在しますが、以上4例を取り上げてみました。おそらく戦闘機が好きな方なら、すくなくとも1つは聞いたことがあることでしょう。
多くは「この戦闘機は○○より優れている」といった議論でよく引用されるパターンです。
さて、「この訓練で○○を撃墜した」という引用が、本当に主張することに対する証明になるのでしょうか。


同類の引用例には興味深い二つの共通点があります。

1:ほぼ同世代で性能的に似通っている。
2:「強い」と主張されている方は、実戦経験が無いか、対象相手に比べ実戦戦果に乏しい。


1に関しては性能が似通っているからこそ白黒付けたいという心理があるわけですが…。2についてはどうでしょう。

「訓練で○○に勝利した」という証拠は、一見しただけでは実に「論より証拠」的であるように思えてしまいます。
しかし、このような場合、大抵「逆の例」が無視されています。「そのときに負けた側は、過去に一度も勝利したことが無かったのか?」・・・という視点がです。

これはおそらく調べれば見つかることでしょう。ほぼ対等の条件下で行われる訓練において、100対0という数字は、殆ど無いに等しい確率です。では、なぜ逆のパターンが言われる事が少ないのでしょう? 

言ったもの勝ちという面も間違いなくありますが、特殊な訓練環境下での引用を行わずとも実戦での実績が物語っているからと言えませんでしょうか。
なお、訓練でF-16に圧倒したはずのMiG-29は、実戦においてF-16を撃墜したことは無く、逆に2機のMiG-29がF-16のAIM-120によって撃墜されています。

さて、上にあげた4つの例では、1の共通点、同世代であるという事実があります。
しかし、その1の共通点を消してしまった場合どうなるでしょう。

F-104JでF-15Cを手玉に取り撃墜した(53回戦闘機とドッグファイト第3章)

T-2練習機がF-15Jを撃墜した(航空自衛隊 サイトより) 現在コンテンツ消滅


どちらの例も早期発見と、編隊による複数機の戦術での勝利なわけですが、事実としてF-104JもT-2もF-15Jを撃墜しました。先の4例を主張する場合、F-15はF-104やT-2にも劣る高いだけの最低駄作機であるという例も、容認せざるを得なくなってしまいます。ここに、たかが一回の訓練での戦果を主張することに無理が生じてしまっています。

訓練とは、事前に取り決められたルールの基に実施されています。
あくまでもそのルールの中において勝負が付いただけなのです。


(更新日:2004年8月1日)


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