96式装輪装甲車

96式装輪装甲車は陸上自衛隊初の装輪装甲兵員輸送車である。
82式指揮通信車や87式偵察警戒車の運用実績から、装輪式装甲車両の性能に自信を深めた陸上自衛隊は、1992年に骨董品とも言える60式装甲車をまとめて更新し、さらに数も足らず、徐々に旧式化の目立ってきた73式装甲車も刷新、補完するべく、小松製作所に対して装輪式装甲兵員輸送車の試作を発注した。その後の試作車両完成を経て試験を行い、1996年に「96式装輪装甲車」として正式採用された。


車体は均質圧延鋼板の溶接構造で、小銃弾や砲弾の破片に耐えられる程度の装甲を備える(試作ではアルミ合金も試験されたが不採用)。車内配置は車体前方右側に後方スライドハッチを備えた操縦手席、その後ろにキューポラと後方に開くハッチを備えた車長席、車体前方左側にエンジンとトランスミッション、その後方に小銃班長席、そして車体後部には左右向かい合わせに4人掛けベンチシートを備えた、8名乗車可能な後部乗員席がある。後部乗員席乗は降用に右開きドアを備えたランプが備えられ、隊員はそこから乗降を行う。また車体側面には外部視察用のシャッター付き防弾ガラス窓と、上面には隊員が身を乗り出して射撃可能な外開き式ハッチが装備されている。その為ガンポートは装備されていない。乗員は操縦手、車長の2名で、その他後方に8名の計10名。

主武装は車長キューポラに96式40mm自動てき弾銃(グレネードランチャー)、または12.7mm機関銃が装備される。それぞれの配備率は10:1と成っており、12.7mm装備型は本部車両として配備される。96式40mm自動てき弾銃は、96式40mm対人対装甲てき弾と呼ばれる汎用成形炸薬弾を使用しており、毎分250〜350発、有効射程1500mで高い面制圧能力を備える。また面制圧兵器で有るにも関わらず、(何故か)高い命中精度も備えており、小標的などに対してピンポイント射撃も可能である。尚、それぞれの武装の交換は可能であるが、キューポラごと交換しなくては成らず、事実上武装交換は想定されていない。その他自衛装備として、車体の前部左上面にレーザー警報装置を備え、その警報に対して自動的に発射可能な発煙弾も装備している。

足回りは4軸8輪の8輪駆動であり、1輪(場所によっては2輪以上)を地雷などで吹き飛ばされたりしても走行可能である。またタイヤはコンバットタイヤ(ランフラットタイヤ)なので銃弾などに対しても有る程度耐性があり、空気が抜けた状態でも走行可能である。さらにCTIS(中央タイヤ圧システム)と呼ばれる空気圧調整装置を備えており、地形により空気圧を変動させて接地圧や接地面積をを調整する事により、装軌式にも劣らない走破性を持つ。また装輪式であるので当然路上速度も高く、高い戦略機動性を備える。サスペンションはオーソドックスなトーションバーで、操舵は前方2軸が受け持っている。エンジンは三菱重工製の直列6気筒液冷ターボディーゼルでトランスミッションと統合されたパック方式である。尚、浮揚渡河能力はない。

本車の導入により北部方面隊の普通科完全装甲化が実現する筈なのであるが、本来高い調達性が売りである装輪式APCで有るにも関わらず調達価格が高く、目的である60式装甲車と73式装甲車の更新が思うように進んでいないのが現状である。その他、隊員のストレス軽減や偵察と言う意味では車外を監視出来る側面窓は、それなりに有効で有るとも思われるが、やはりその部分の被弾に対する脆弱性が強く指摘されており、実際APCで車体側面に窓ガラスを持つ車両は極少数である。
また主武装の96式40mm自動てき弾銃の信頼性に不安がある様で、隊員の間では62式7.62mm”言う事きかん”銃ばりに評判が悪い。また万が一地雷を踏んでしまった場合、余りそれを想定していない真っ平らな車体底面がその爆発力を逃がすことが出来ず、致命的な被害を受けてしまう可能性が指摘されている。その他、車両故障時に本車を牽引出来る車両が今のところ重レッカー車しか存在しないので回収手段が限定されており、専用の回収車の登場が期待されている。

本車は普通科教導連隊4中隊を皮切りに配備が始まり、北部方面隊を中心に第2師団、第5師団、第11師団(旅団化予定)の各普通科連隊に配備され、また先のイラク派遣部隊にも装備され、その車両は増加装甲を施した特別仕様の物が装備された(内容は不確定だが、それを元にした装甲追加キットの開発も伝えられている)。なお、本土の普通科は強力な敵機甲師団と相対する事態は考えにくく、その為主に軽装甲機動車と高機動車の配備が中心となっており、本車が配備されるのは小規模にとどまると見られている。

余談として、陸自は96式装輪装甲車とは全く関係のないスイス製4軸8輪、8輪駆動の装輪式装甲車をベースにした装輪式歩兵戦闘車の新規開発を計画してる。ほぼ同スタイル同規模の本車を用いる事によりそれなりに有用な車両が、安価で早期に開発出来ると思うのだが、なぜわざわざ新規開発(それもよその国の車両ベース)するのかは全く以て謎である。

性能諸元

名称 96式装輪装甲車
製造 小松製作所
全長 6.84m
全幅 2.48m
全高 1.85m
乾燥重量 14.5t
出力 水冷直列6気筒ターボディーゼル 360HP
速度 100km/h(路上)
燃料搭載量 不明
航続距離 500km
主武装 12.7mm機関銃x1又は40mm自動てき弾銃x1
副武装 4連装発煙弾発射機x2
乗員 2名+8
実戦配備 1996年

派生型

なし。

配備国

●日本

172両(1996〜2002)

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