ATA A-12
【AVENGER II - アベンジャー2】

A-12アベンジャー2(アヴェンジャー2)は米海軍の艦上攻撃機A-6イントルーダーの後継として設計され、1990年代に就役が予定されていたステルス艦上戦闘攻撃機である。しかし本機はモックアップのみが製造され、実用はおろか試作機が製造されることも無かった。よって、以下で掲載する性能はあくまでも「計画」に過ぎず、実機は存在しないことをまず念頭に入れていただきたい。
なお、本アベンジャー2はCIA/米空軍の超音速戦略偵察機A-12(YF-12/SR-71)ブラックバードとは無関係である。

【機体構造】

A-12はA-6イントルーダーの後継機計画、先進戦術航空機(Advanced Tactical Aircraft:ATA)プログラムで以下の性能を要求された。

・空軍のF-117に劣らないレーダー断面積(RCS)及びペイロード
・A-6より長い航続距離と高速度、整備性
・全天候・夜間攻撃能力
・空対空戦闘能力

本機の最大の特徴は徹底的にRCSの低減化が図られていることである。
その特徴としてダイバータレスエアインテークを持つ。多くの戦闘機は胴体とエアインテークの間に境界層隔壁(ダイバータ)を持つが、本A-12にはダイバータは見られない。ダイバータは機体境界層に流れるエネルギーの無い空気の吸入を防ぐ効果があり、エンジン効率的に見て優れた効果を持つが、レーダー断面積を優先する見地からすれば邪魔以外の何物でもない。
A-12よりも設計年度が古いステルス機F/A-22はYF-22から大分設計変更されたとは言え、基本設計は80年代である。そのラプターはダイバータを持つが、最新のF-35JSFはA-12同様にダイバータレスインテークの設計が施されている。
超音速(しかもスーパークルーズ)を要求された「戦闘機」であるYF-22に比し、A-12には「A-6以上の高速度」は求められているが、超音速を必用とはしていないため、ダイバータを持つ意味も薄かったという理由もあるが、ステルス性が重視された一要因であろう。
また、面白いことにエアインテークを二つもち、ジェネラルエレクトリックF412-GE-400ターボファンエンジンを2基搭載しているにも関わらず、2基のエンジン排気を混合し一つエンジンノズルから排出する極めて異例な設計を持つ。これも、RCS低減化に理想的な完全なる形態にエンジンノズルという異物の影響を最低限に抑えるための処置である。エンジンノズルは後縁中央下部に目立たない位置に配置されている。一見するとどこにエンジンノズルがあるのか分からないところも、面白い特徴であろう。
また、こうした見た目の特徴が無い事が特徴ともいえるほど見事な三角形の全翼機である本機は視認性も低く、目視による探知も従来の航空機に比べ難しいと言う。
(エンジンノズルとエレベーター)

操縦翼は後縁エンジンノズルの切り欠け部にエレベーターを持ち、左右両端に下方向に動くエレボンと上方向に動くスポイラーを2基持ち、これらの操縦翼でA-12は制御される。
ピッチ方向の制御はエレベーター及びエレボンによって行われ、ロールは片方のスポイラーとエレボンがそれぞれ逆方向に動くことにより行われ、ヨー方向の制御は左右どちらかのエレボンとスポイラーが同時に展開することによるスプリットドラッグラダーで実現する。
また、操縦装置はフライバイワイヤ方式となっており、これらはセントラルコンピューターを介し安定した飛行のため常に半自動的に稼働している。なお、バックアップは全てデジタル式であり、直接的なアナログバックアップは持たない。元来安定性に欠ける為実用化には程遠い状況であった全翼機である。仮にアナログバックアップを持ったとしてもセントラルコンピューターを介さない手動操縦は困難であろう。こうした操縦方式はB-2スピリットとほぼ同等である。

RCS低減のための全翼機構造は高い飛行性能を持つ上でも有利であった。全翼機は通常の飛行機に比較し揚抗比が抜群に良い。また、ウェポンベイに兵装を収容する事はRCS面からの処置であるが、元来ウェポンベイとは搭載兵装を収容することにより抗力の増加を防ぐためのものである。ターボジェットエンジンを搭載するA-6の比較しにエンジンは高効率のよいターボファンを装備し、推力合計もおよそ20kN増加し、全翼機の形状は大きなインテグラルタンクは大量の燃料を搭載可能としたことにより航続距離は大きく延長された。
以上のように艦載運用という大きな制限を持ちつつ低いRCSやA-6以上の速度および航続性能を実現するには全翼機という形状は理想的な設計であった。なお、艦載時には両翼端を畳むことにより全幅は21.417m(70ft 3.2in)から11.054m (36ft 3.2in)に短縮することが出来る。

【レーダー】

A-12はウェスティングハウスAN/APQ-183マルチモードレーダーを搭載する予定であった。AN/APQ-183の最大の特徴は逆合成開口レーダー(ISAR)であることである。
逆合成開口レーダーは、動体目標、艦船などが波によるピッチ軸ロール軸ヨー軸の回転運動を行った際に重心から遠く移動量の大きな部位と、銃身に近い移動量の小さな部位、例えばロール軸の動きであらば、移動量の大きいマスト部、逆に小さい喫水部の移動量の差異をドップラー偏移で収集し、その差を解析し、イメージとして得ることができる(ただし、目でみたアングルとは異なる)。
AN/APQ-183の逆合成開口レーダーモードの分解能は最大で1m程度で、イメージの分解能は時間と周波数(ドップラー効果)の差異により解析しているため距離に依存しないため長いレーダーレンジでも近距離と変わらない利点を持っている。これにより艦艇クラスの大型目標であれば遠方から艦型を識別することが可能である。

AN/APQ-183はマルチモードレーダーであるからして空対空レーダーとしての能力も持った。A-12本来の任務では無いがAN/APQ-183はRWS(Range While Search:範囲捜索)及びTWS(Tracking While Scan:追跡中走査)レーダーモードを持ち、最大2目標に対して同時に攻撃を行う事ができる。
面白いのは、空対空レーダーモードでも逆合成開口レーダーが活用し機種を判別することが出きるということだ(らしい)。
但し、以上は「机上に於いてのスペック」である。本レーダーはRQ-3ダークスターUAVにも搭載される予定であったが、A-12同様配備には至っていない。
(なお、近年では哨戒機などが逆合成開口レーダーを装備する機が増えている。海上自衛隊SH-60Kなどもその一つである。)

基本的に全天候攻撃機は複座が好ましい。多くが半自動化されているとは言え、兵装・レーダー操作に専念するクルーの存在はきわめて大きい。A-12はパイロットが搭乗する前席、兵装システム士官が登場する後席を持つが当然完全なグラスコックピット化が施されている。ホログラフィHUDやPFDはカイザー社製でありそのレイアウトは一見するとF-15Eストライクイーグルに酷似している。

【兵装・ミッション】


A-12は上CGのようにメインギアを挟んだ内外にウェポンベイを4つ。内側のメインウェポンベイには爆弾類を搭載し、外側は自衛用の空対空ミサイルを搭載することができる。それぞれウェポンベイ内部のアームに懸架し、兵装発射時にはアームが展張し外部に押し出すように切り離す。
最大搭載量は主兵装となる攻撃兵器は2000lbs級が2発と、それに加え自衛用のAIM-120を2発搭載できるが、攻撃機としてのペイロードはF-117と殆ど変わりが無い。大きな搭載量が特徴であるA-6の後継としては搭載力不足な感は否めないが、この件については後述する。
また搭載するAIM-120AMRAAMは基本的に自衛用である。通常、攻撃機の自衛用であらばAIM-9サイドワインダーを装備するのが通例であるが積極的に空対空戦闘を仕掛ける物ではない。
例外的にAIM-120を装備したA-12は高いステルス性を活かし敵防空網に侵入。高価値空中目標(早期警戒機やタンカーなど)に打撃を与える空対空任務も想定されているが、ほとんど抑止力的なものであろう。
主な搭載兵装はレーザー誘導爆弾、当時開発中であったGPS誘導爆弾、AGM-123スキッパー、AGM-88HARM、AGM-65マベリック、AGM-154JSOW、AGM-137TSSAM(開発中止。代替としてAGM-158へ)、AGM-84ハープーン等である。
また空対空ミサイルとしてAIM-9L/M及び開発中であったAIM-152/155 AAAMの搭載も予定されていた。

80年代後半から90年代に掛けてはRMA、情報における軍事革命が叫ばれ始めた頃であり、A-12はその理論に則った尖兵的役割を担うはずであった。
具体的には高度なデータリンクシステムによる迅速かつ多目標同時攻撃かつ、高いステルス性により敵対国の反撃を受けずに(受けにくい)、まずは防空網と指揮統制施設を破壊し軍隊組織そのものを麻痺させ、後続する非ステルス機の安全性を確保する事である。本A-12アベンジャーの開発中止が決定したのは1991年1月5日のことであるが十日後に始まった「砂漠の嵐作戦」でこうした情報優位を駆使した麻痺戦への変革が実証されたのは、「ドアキッカー」として開発された本機にとって皮肉な話である。
極めて少ないペイロードはこうしたミッションを想定していたからである。「ドアを蹴破った後」に必要となるペイロードが重視される地上攻撃ミッションには、マルチロールファイター(F/A-18等)に任せればそれでよく、戦闘機飛行隊(VF)の戦闘攻撃機飛行隊(VFA)化により、本機のペイロードが貧弱であっても艦隊航空戦力が大きく劣るというわけではなかった。
A-12は継続してステルス性と航続距離を活かした、F-117のような軍隊や国家機能を麻痺させるためのディープストライクミッションや、防空網制圧(SEAD)及び防空網破壊(DEAD)に従事することが目的とされていた。

【開発中止へ】

技術的困難・それに伴うタイムスケジュールの遅延・さらに発生する予算超過…現代の戦闘機の開発にはこうした問題は付き物である(本来有ってはならないものであるが)。A-12も例外なく悩まされつづけた。

一番の問題点は重々量化である。新規開発された炭素系複合材(CFRP)を多用することによる軽量化が当初の設計以下の効果しかもたらさなかった。また、用いられた複合材では艦載運用に於いて負荷に耐えられない恐れがあることが発覚し、強度を高める為より重い金属構造への再設計を余儀なくされた。
さらに当初は海軍620機と海兵隊238機の調達が見込まれていたが後に空軍へ400機の調達が計画され、A-12は三軍統一攻撃機として再設計されることとなったが、海軍・海兵隊と空軍では互いに要求する性能は異なっていた。本来性能向上余地として残されていたスペースは空軍の求めるアビオニクスで潰され、将来の性能向上余地を潰し、機体はさらに肥大化していった。
最終的に乾燥重量は39,000lb(17,706kg)にも達し、最大離陸重量は80,000lb(36,290kg)と推計され、F-14Aトムキャットよりも重くなる事が確実視された。また、逆合成開口レーダーの実用も遅々として進まなかった。
A-12の開発には30億ドルもの巨費が投じられたが、再設計による予算計上においてこれを超えることが確実となった。また、生産コストも1機あたり少なくとも9,620万ドルと見積もられた。これは三菱・ロッキードF-2に勝るとも劣らないほど高価な数字である。

1990年8月にはイラク軍がクウェートへ侵攻。アメリカは「砂漠の盾作戦」において大兵力をサウジアラビアに展開していた。11月29日には翌91年1月15日をクウェートからイラク軍の撤退期限とした国連武力行使容認を決議。後に「湾岸戦争」とされる砂漠の嵐作戦の発動は避けられない状況であり、30億ドルの巨費にさらなる追加投資は不可能であった。
1991年1月5日、チェイニー国防長官はATA計画A-12アベンジャーIIの開発のキャンセルを発表。事由は以上のような予算の超過、スケジュールの遅延、性能向上余地の無さである。

三軍統一戦闘機F-111アードバークで失敗した轍を見事なまでに再び辿ってしまったA-12アベンジャーATAの開発中止は後のF/A-18EFスーパーホーネットへと繋がる事になるが、A-12の開発に投入された30億ドルの予算は国費への返還訴訟にまで発展している。

本A-12アベンジャーが仮に採用決定されていたら、今ごろは日本国内でも厚木基地周辺で見ることが出来たであろう。ジョイントストライクファイターはX-35を原型とする事が既に決定済みであるが、もしX-32が採用決定されていたとしたら、将来的に登場するであろうUCAVと併せ、ゲテモノ系戦闘機が席巻する空母艦上を見なくて済んだ分、あくまで私見だが残念なような嬉しいような気持ちを感じえない。

これはもう戦闘機や攻撃機の類ではなく宇宙人の乗り物であろう。

性能諸元

名称 A-12 アベンジャーII
製造 ジェネラルダイナミクス(主契約)
マクダネルダグラス
主任務 攻撃機
全長 11.353m(37ft 3.0in)
全幅 主翼展開時:21.417m(70ft 3.2in)
主翼折畳時:11.054m (36ft 3.2in)
全高 3.439m (11ft 3.4in)
主翼面積 121.517m^2 (1,308ft^2)
最大翼面荷重 298.64Kg/m^2 (フルペイロード)
乾燥重量 17,706kg (39,000lb)
最大離陸重量 36,290kg (80,000lb)
最大搭載量 およそ 2000Kg
最高速度 海面高度:928km/h (580mph)
戦闘半径 920nm (1,700km)
エンジン ジェネラルエレクトリック F412-GE-400×2
アフターバーナー 無し ターボファン 57.8kN (5896.8kgf)
固定武装 機関砲(予定)
初飛行 飛行せず
乗員 2名:パイロット+兵装システム士官
生産数 0機


固定兵装・ガン 空対空兵装 空対地兵装 アビオニクス類
機関砲 AIM-9L/M/X
サイドワインダー
パッシブレーザー誘導爆弾
ペイブウェイII
GBU-10/GBU-12/GBU-16
ペイブウェイIII
GBU-24A/B
ウェスティングハウス
AN/APQ-183 マルチモードレーダー
AIM-120AMRAAM GPS誘導爆弾
GBU-31/GBU-32
VHSIC(超高速集積回)
IBM 製ミッションコントロールコンピュータ
AIM-152 AAAM 対戦車ミサイル
AGM-65マベリック
カイザー製 広視野ヘッドアップディスプレイ(HUD)
対艦ミサイル
AGM-84ハープーン
カイザー製 多目的ディスプレイ(MFD)
前席3台+後席4台=7台
対レーダーミサイル
AGM-88HARM
ジェネラルエレクトリック
赤外線捜索追跡システム
(IRSTS:Infra-Red Search and Track System)
パッシブレーザー誘導ミサイル
AGM-123スキッパー
総合電子戦システム
GPS誘導巡航ミサイル
AGM-154JSOW
AN/ALD-II ESM
(Electronic Surveillance Module) セット
GPS誘導ステルス巡航ミサイル
AGM-137TSSAM
無誘導爆弾類
Mk82/83/84
CBU87等

ウェポンベイ 1 2 3 4
空対空兵装
空対地兵装
A-12 兵装搭載例
ストライク(INT) AIM120
GBU24
GBU24
AIM120
防空網制圧(SEAD) AIM120
AGM88
AGM88
AIM120

派生型

なし。

配備国

●アメリカ海軍・海兵隊 (空軍) 予定

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〜おまけ〜

このCGはもし航空自衛隊のブルーインパルス使用機になったら…というジョークだが、
フラッペロンとスポイラーの動きが再現されており参考になる。