殺人無人機と有人戦闘機の戦い
UAV、いわゆる無人機は今でこそ珍しいものではなく、簡単なものなら市販のラジコン飛行機にカメラを搭載すれば、それだけで立派な無人機が誕生します。
簡素で安価そして何より人が搭乗しないという利点から、危険度の高い地域や長時間の偵察任務に過去より多用されてきました。
最近ならば簡素で安価という利点を捨て、可視光カメラだけではなく、赤外線カメラや側視レーダーなど多用なセンサーを搭載し、航続距離と高高度性能、滞空時間を大幅に強化し、ジェットエンジンを装備した、現在航空自衛隊への配備が検討さているRQ-4グローバルホークも既に戦場上空で偵察任務に付いている事は周知の通りです。
グローバルホークよりも遥かに小型かつ低速低空のRQ-1プレデターも性能は異なるものの同種のセンサーを装備し、調達価格は地上管制を含めたシステム全体で4000万ドルと、F-16戦闘機以上に高価で、安価という利点は完全に失われています。(戦闘機のお値段その1)
トップの写真はIAIハンターUAV。こちらもほぼ同じ性格を持った機体です。
安価なUAVの代表例。手前がMQM-74 奥がBQM-34標的機。
「超」安価な代表例。歩兵携帯用UAV モスキート
多種のセンサーを装備した高価なプレデター
しかし、U-2ドラゴンレディのような人間が行うには疲労が大きい長時間の偵察を主任務とした航空機の役割は安価という失われた利点を補って余るほどの利点を活かし、完全に無人機が取って代わろうとしつつあります。
MQ-1プレデター(RQ-1に比べセンサーに劣る)は現在唯一攻撃能力を持つ「殺人無人機」として、2002年にはイエメンでアルカイダの要人が搭乗していた自動車をヘルファイアで破壊し殺害。史上初の無人機による対地攻撃を成功させました。2003年にはイラクの自由作戦でZSU-23-4シルカ対空戦車をヘルファイアで破壊。戦闘車両の初撃破を記録しました。
2005年のネリスエアショーではヘルファイアを搭載したプレデターが不気味極まりない地上攻撃デモを実施し、それを目の当たりにし大変ショックを受けました。
(動画)
また、将来は地上攻撃からさらに進化し空対空戦闘を行う航空優勢を確保するための無人戦闘機も登場するかもしれません。が、一般に言われているような、人間の限界を超えた10G以上の機動を行うというような物では無いでしょう。
現状の戦闘機ですらリミットを超えて10G以上のような機動を行ったならば即刻検査隊行きであり、また、いくつかの戦闘機の制限である9Gですらクリーン時のみの話しであり、空対空ミサイルのみの武装を施すだけでもG制限が7.33G、6.5Gと低下してしまうのですから、人間の限界を超えた機動を実現すると言うのは難しいでしょう。また、高いGでの機動を行う以前に、そのような機動を必要とする距離での交戦では機動性より何より相手を目視で確認し、瞬間的に状況を認識し判断を下す事が何より重要であり、カメラとモニターを介し遠地で行うには有人戦闘機のそれには遥かに及びません。
目視外視程の交戦においても状況認識と判断の重要性は同じであり、“現状では”真の無人戦闘機の利点は大きく無いように思えます。
なお、2003年3月には、
Weapons Free!のMiG-25項でも触れましたが、偵察任務中のプレデターを撃墜する意図を持ったイラク空軍のMiG-25と交戦し、プレデターは2発のAIM-92スティンガーを発射。
たかが100馬力のエンジンに速度も僅かに120ktにも満たない無人機と、方や推力10tのエンジンを双発で装備、最高速度はマッハ3にも達する世界最速の戦闘機が刃を交えたのだから結果は火を見るより明らかです。プレデターが先手を取ったもののスティンガーは命中せず結局の所はMiG-25に軍配が上がりプレデターは被撃墜しました。
無人機と有人戦闘機の交戦は古くはスピットファイア・テンペストが迎撃したFi103に始まり、数多に行われてきましたが、史上初の空対空装備で武装した殺人無人機と有人戦闘機の交戦が行われたのです。人間が操縦するミグ(プレデターも人間が操縦していますが…)が勝利を収めたのは心の奥底でどこか嬉しいような感覚を覚えてしまうのは私だけでは無いはずです。
なお、1981年5月14日。レバノン上空に於いてイスラエルの無人偵察機が、任務中にシリアのMiG-21の迎撃を受けました。UAVは勿論非武装ですからMiG-21の攻撃になす術もありません。しかしUAVの操縦士は攻撃をかわし、なんとMiG-21をマニューバキルしてしまいました。時速100km/hの無人機がマッハ2の戦闘機を撃墜してしまったのです。
さすが世紀のヤラレメカMiG-21。これだからフィッシュベッドファンはやめられません。
(事実かどうか不確定情報です。笑い話程度の信憑性だと思ってください。)
あとがき
この文章を書いている間に名実ともに有人攻撃機(F-117等の任務)を代替するであろうX-45,X-47の両J-UCASが開発中止というニュースが入り、本当は二部構成だったのですが後半を丸々削除してしまいました。
両機はプレデターやグローバルホークとは違い、事前のプログラミングにより完全に自律した任務が行える予定であり、前途は明るいと思っていたのになんとも残念です。
真の無人戦闘機の実用にはまだ時期尚早だったということでしょうか。とはいえ、この流れは止めようが無く続き、将来的には良くも悪くも無人戦闘・攻撃機は必ず実用化されることでしょう。
ノースロップグラマンX-47 艦載機です。勿論翼は折りたためますし、着艦フックも装備。
ボーイングX-45 新型誘導爆弾SDBを搭載。反対側には2000ポンドJDAMを搭載。