1975年。Cクラス(陸上機)の上昇力絶対世界記録はF-4ファントム及びMiG-25(Ye-266)フォックスバットが席巻していたが、イーグルはその記録を全て塗り替えた。
記録挑戦に用いられたF-15A(72-0119)は飛行に悪影響を及ぼす機器類を徹底的に排除された。塗装からレーダーやFCS類、アレスティングフック、M61A1バルカン砲、一部の汎用油圧システム、ジェネレーター1基、必用限度以外のアクチュエーター、等である。これらを撤去した記録挑戦機は実に1,270kgもの軽減化を達成した。
素地が露出したこのF-15は全裸で街や店内など衆人監視の中を走り回るストリーキングにちなみ STREAK EAGLE (ストリークイーグル)と呼ばれた。すなわち「全裸のイーグル」である。
ストリークイーグル最初の記録挑戦飛行は1975年1月16日に行われた。パイロットRoger J. SMITH少佐の操縦により3000mの27.571秒の上昇記録を立て、世界記録を更新した。続いて同日2回目のフライトでWilliam R. MacFARLANE少佐の操縦により6000mまで39.335秒 , 9000mまで48.663秒 , 12000mまで59.683秒と、一度のフライトで全てを更新した。
ストリークイーグルはブレーキと制動ワイヤーにより拘束された状態で推力をアフターバーナー位置にまで上げてから制動ワイヤーを爆破してリリースし離陸滑走を開始する。(この時点でタイムカウントを開始)ストリークイーグルは僅か120mの滑走で離陸速度に達する。エアボーン後は即座にギアアップしなければならず、一瞬でも遅れれば格納が完了する合間にギア展開時の制限速度をオーバーしてしまう程であり、実際に何度もそういう事態になった。ストリークイーグルは極めて低高度のままおよそマッハ0.6-0.7まで加速し、5Gで機首上げに入りピッチ角およそおよそ80度ハイレートクライムに入る。ストリークイーグルはブレーキリリースから僅か23秒で超音速を突破する。
そして15000mの記録に挑戦した3回目の飛行では高高度与圧服を装備(以降全て着用)したDavid W. PETERSON少佐によって行われ、4Gで機首上げし55度のハイレートクライムを維持する飛行プロセスにより77.042秒で達した。
続き1月19日にはRoger J. SMITH少佐の操縦による20000mへの挑戦が行われた。
20000mへの飛行プロセスは15000mやや異なり、離陸しマッハ0.65まで加速後は2.5Gの緩やかで極めて大きな超音速インメルマンターンに入り、9750mまで上昇する。背面状態から水平状態にリカバリーし、この時点で加速開始から56秒。速度はマッハ1.1である。ここからマッハ1.55まで緩やかに上昇しつつ加速、4Gでピッチ角55度までピッチアップ、2度目の上昇に入りそのまま20000mまで上昇する。122.94秒で到達。当然世界記録更新である。
続き1月26日、David W. PETERSON少佐により25000mへの挑戦が行われた。殆ど20000mの飛行プロセスと同じであるが、2度目の上昇の前にマッハ1.8まで加速し、同じく4Gでピッチ角55度までピッチアップし上昇する。記録は161.025秒。
2月1日にはRoger J. SMITH少佐により30000m挑戦が行われ、再び殆ど同じプロセスで飛行、2度目の上昇の前にマッハ2.2まで加速し、4Gの引き起こしで55度のピッチ角で上昇した。207.799秒で到達し最後の上昇記録を更新した。またこの飛行で31200mまで上昇しF-15の上昇限度記録となっている。
以下の表にF-15Aストリークイーグルが達成した記録と、その前の記録、そして現在のレコードホルダーを記載する。
20000m以上の記録で急にペースが落ちているのは2回の上昇と加速を必用としたためである。
高度 | 前記録 | F-15Aの記録 | 日付/パイロット | 現在の世界記録 |
3000m | 34.52s (F4H-1 PhantomII) | 27.571s | 1975/01/16 Roger J. SMITH | 25.37s (Su-27/P-42) |
6000m | 48.79s (F4H-1 PhantomII) | 39.335s | 1975/01/16 William R. MacFARLANE | 37.05s (Su-27/P-42) |
9000m | 61.68s (F4H-1 PhantomII) | 48.863s | 1975/01/16 William R. MacFARLANE | 44.18s (Su-27/P-42) |
12000m | 77.14s (F4H-1 PhantomII) | 59.383s | 1975/01/16 William R. MacFARLANE | 55.54s (Su-27/P-42) |
15000m | 114.50s (F4H-1 PhantomII) | 77.042s | 1975/01/16 David W. PETERSON | 70.00s (Su-27/P-42) |
20000m | 169.80s (MiG-25/Ye-266) | 122.94s | 1975/01/19 Roger J. SMITH | 122.94s(F-15) |
25000m | 192.60s (MiG-25/Ye-266) | 161.025s | 1975/01/26 David W. PETERSON | 154.2s(MiG-25/Ye-266M) |
30000m | 243.86s (MiG-25/Ye-266) | 207.799s | 1975/02/01 Roger J. SMITH | 190s (MiG-25/Ye-266M) |
(F4H-1は後にF-4Aと改称。P-42(П-42)はSu-27フランカーの記録挑戦用機、Ye-266(Е-266)はMiG-25フォックスバットの記録挑戦用機、Ye-266M(Е-266М)はYe-266のエンジン性能向上型。)
ストリークイーグルは後に作戦機に復旧させる予定であったが徹底的の軽量化が施されたストリークイーグルを本来のイーグルに戻すには多額の費用が必要であった。そのため本機は作戦機に戻る事無く試験機として運用を受けるため腐食防止のため塗装が施され、1980年12月に除籍、エアフォースミュージアムへと寄贈された。
上表のようにストリークイーグルの立てた8つの新記録のうち7つがP-42やYe-266M既に更新されてしまったが、F/A-22やSu-30MKのような最新の高性能機であれば、更なる記録更新は余裕であろう。しかし、こうした記録を打ち立てたところで多額の費用が掛かるほどの「効果」は無い。恐らく唯一F-15が保持している20000mの記録は今後しばらくも更新される事は無いであろう。
互いの戦力を誇示しあった東西冷戦期とはいえなんとも贅沢な余興である。
強力な上昇力は迎撃戦闘機としての優秀性を物語っている。
■PICTURE
streakeagle01.jpg - USAF
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