F-15の欠点と将来性

【レーダー反射断面積 RCS】

1970年〜80年代はF-15に匹敵する戦闘機は皆無に等しかった。
唯一匹敵しうる戦闘機と言えば同じ米国のF-14ぐらいのものであっただろう。それだけF-14とF-15は遥かに抜きん出ており、登場から30年近くもの間、性能の面においても実績においても最高級の戦闘機であることに疑いの余地は無かった。
しかし90年代後半から2000年代に入ると、その性能アドバンテージは大きく詰められてきている。
欧州のタイフーンや、フランスのラファール、米国のF/A-18Eスーパーホーネット、日本のF-2はF-15にくらべ遥かに進んだ設計思想の元製造されており、運動性の面でも優れ、さらに初期の段階からF-15を多くの面で上回るアビオニクスを搭載している。かつF-15が開発された当時には全く考慮されていなかったレーダー反射断面積(RCS)の低減、すなわちステルス性にきわめて優れている。

RCSはF-15の場合、平均15〜25平方メートルで、ほぼ同クラスのF-14やMiG-25、Su-27系も同程度である。先にあげた最新の小型マルチロールファイターはおよそ1平方メートル程度であると言われている(ただし、レーダー反射面積は状況によって大きく変動するので参考程度に)。
F-15は真正面の極めて小さい角度であるが、RCSは400平方メートルにも達する(らしい)。どうやら、大きなレーダーと、エアインテークから剥き出しの大口径ターボファンが原因だと言われている。
「F-15の真正面の極めて小さい角度」を捉える事が出来るということは、F-15がこちらに機首を真っ直ぐに向けている場合であり、これは「自分が捕捉されている」事を意味する。すなわちF-15に先手を取られている状況である。レシプロ戦闘機の時代から、現代でも変わらない空中戦の大原則は「先に発見する事」である。自分が捕捉されている状況で、相手を探知する確率が増える事を期待しては本末転倒であり、対F-15戦闘において、この極めて小さい角度を相手が意図的に利用することは事実上不可能であろう。
どちらにしろ、最新機に比べてレーダー反射面積が大きいことに変わりは無く、単純に言えばRCSの差が16倍であるなら被探知距離は2倍に跳ね上がる。

こうした弱点を解決した戦闘機がF/A-22ラプターである。

【高コスト化】

戦闘機の開発および生産コストは第1次世界大戦当時から現在に至るまで文字通り右肩上がりで上昇し続けた。
F-15イーグルは性能こそ飛びぬけていたが、やはりユニットコストもまた飛びぬけていた。およそ3000万ドルという数字はF-14の4000万ドルと並び、コストも最高級の戦闘機であった。
よってF-15はその自身の高価さ故に、当初予定されていたF-4ファントムを全機代替することは不可能となってしまった。空軍の数の上での主力は数千機単位で配備されているF-16ファイティングファルコンに奪われてしまっている。が、しかし湾岸戦争以降の米空軍のF-15及びF-16の撃墜数比率は10倍近い差があり、F-16はどこまでもマルチロールファイターであり、F-15は常に航空優勢の確保を行う主力戦闘機であった事は紛れも無い事実である。

米国以外でF-15を運用している国は僅かにイスラエルとサウジアラビアと日本と韓国のみである。しかしながら、それでもF-15の総生産数は1500機にもおよび、量産効果の現れも有り、やはり他国でも高コスト化が進んでいた最新鋭のマルチロールファイターと、相対比において価格的は同程度まで低下している。そのため2000年代以降、F-15を製造するボーイング社の売り込みも有り、幾つかの国でF-15の採用を検討する国も現れ始めた。
その代表例が韓国空軍であり40機のF-15K(F-15E)の採用を決定し2005年から引渡しが始まった。現在シンガポールでも最新鋭のアビオニクスやエンジンを投入したF-15Tが最終選考に残っている。
採用こそされなかったがギリシャ(F-15E)や、あまり現実的ではないが米空軍および州兵空軍において余剰となったF-15A/Bをリストアし東欧諸国に対し売却する計画も有った。現在に於いてF-15は特別高価である戦闘機では無くなっている。

F-15の後継機F/A-22は「軍事的均衡は許されず」という思想の元に設計され、コストを度外視してすべての航空機の頂点に立つ文字通り最強の戦闘機となるべく設計された戦闘機である。F-15の理念をそのまま受け継いでいると言える。
しかし、F-15が高価になりすぎてF-4などの戦闘機をすべて代替できなかったように、F/A-22もまた高価になりすぎてF-15のすべてを代替することは不可能となってしまった事まで引き継いでしまったのは皮肉であろう。
当初750機生産の予定が、現在では100機代にまで減数されてしまっている。よって、F-15の代替機は今のところ存在せず、F/A-22が配備されたことによりF-15の退役が始まっているが、少なくとも2030年ごろまで米空軍の主力制空戦闘機として配備され続けられる。

【近代化改修・マルチロール化】

米国ならずともイーグル使用国で行われている標準的なレーダー、電子戦システム(TEWS)、ヘルメットマウンテッドサイト(HMS)、赤外線捜索追尾装置(IRST)、統合戦術情報分配システム(JTIDS)端末装備、セントラルコンピューター(CC)といった機器の換装でアビオニクスの面では一線級を維持しつづける事は可能であり、幸い巨大な機体には性能向上余地が残されている。
わが国の航空自衛隊に於いても最新鋭のアビオニクスを搭載する事により性能向上を見込んでいる。
レーダーなどは物理的な大きさが関わってくるので、機首が大きなF-15は最新鋭のマルチロールファイターよりも2倍近い視程を持つなど、イーグルにしか出来ないアドバンテージも少なからず存在する。
運動性能の面も、エネルギー戦闘に持ち込むことにより対抗は十分可能であろう (そもそも、格闘戦自体が殆ど行われなくなっているが)。

(インド空軍のSu-30K,ミラージュ2000と編隊飛行するF-15C。Su-30もMr2000も新型の強力な戦闘機だ)

米空軍ではF-15Eストライクイーグルは別であるが、F-15を一切空対地ミッションに投入することは無かったが、最近では空対地ミッションに投入するための改修を行うといった声が上がっている。F-15は設計段階から空対地攻撃を想定していたし、イスラエルでは旧来からF-15を空対空戦闘のみならず航空攻撃にも多用してきた。飛行距離4000kmを超えるチュニス空爆にも投入されるなど、特に長距離飛行能力の面でF-16に比較し極めて高い。
ただ、こうした計画はパイロットを空対空戦闘訓練に集中させた場合に比べ空対空における練度は低下する弊害を招く。空対空を疎かにしたベトナムの悪夢の再来とまで言わないにしろ、反対派の活動により今まで何度か立ち消えになっている。よって将来マルチロールファイターとして使用されるかは現時点で予測は難しい。

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withsu30mr2000.jpg - USAF