F100ターボファンエンジン

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【F100-PW-100】

次期戦闘機FX(F-15)は広大な主翼で高い旋回性能を実現するが、旋回時の大きなGの抗力に打ち勝つ強力なエンジンが必要不可欠であり、F100エンジンはF-15に搭載する事を目的とし、並行して開発が行われた。

F100は従来のスチールを多用した設計から、チタンや高ニッケル合金を多用した構成で3段のファン、10段のコンプレッサー、アニュラー型燃焼室、タービン入り口温度1400度に耐えうる一方向性凝固を用いたブレードを持つ2段の高圧タービンと、同じく2段の低圧タービンで構成されており、圧力比は24.8:1、バイパス比は0.72:1、空気流量は103kg/sで、肝心の静止推力はドライ65.2kN、アフターバーナー使用時105.9kN、重量は1370kg、推力エンジン重量比は7.8:1になる。機体重量との比であらば(燃料約7割+サイドワインダー4発装備でおよそ18トン)1.2:1に達し、これによりF-15は理論上垂直上昇中に加速する事が実用戦闘機としては初めて可能となった。
F100の優れた所は推力だけではない。戦闘機用エンジンとしてはオン・コンディションの先駆けであり基本的な整備は定期的な点検を行うだけ済み、常にエンジン運転状況を監視しBITに異常が発生した場合にのみ部品の換装等が行われ設計上定期的なオーバーホールを必要としない。不具合発生間隔は平均で1800フライトサイクルにも達しており維持に必用なコストの低減を実現している。


上のようにF100のエンジン排気口は推力(正確にはタービン回転数)によって断面積を無限段階的に変化させるバランスビームノズルを持つ。左写真は着陸滑走中で回転数はアイドルである。右写真は離陸上昇中のドライ推力での最大回転時である。

但し、さらに推力を上げるためアフターバーナー使用時する場合にはノズルは大きく開く。


装備する2基のエンジンはチタン製のキールで覆われている。どちらかが被弾して破損しても外部や片方のエンジンに二次的被害を及ぼさないための配慮である。
事実、1982年には空対空ミサイルにより被弾し片方のエンジンを破壊されたにも関わらず無事に帰還している。イスラエル国防軍空軍 - イーグル無敵神話は嘘か?を参照。
高熱になるエンジン周りの金属部は外気に剥き出しになっているが、さすがのチタンも嘉手納のような常に潮風に晒されるような場所では塩害も馬鹿にならず、小まめな洗浄が必要不可欠なようだ。

両エンジンの間にはアレスティングフックを持つ。緊急着陸時に滑走路に張られたいくつかのワイヤーに引っ掛ける事により確実に停止させる。無論空母への着艦を行う事はできない。

1972年にYF-15に搭載され初飛行が行われてから実用開始数年後にいたるまで、飛行中のあらゆるプロセスにおいてF100-PW-100は突然のストール・スタグネーションに悩まされ続けた。問題は急なスロットルの操作、アフターバーナー点火時、高迎角時に特に集中して発生した。ストール・スタグネーション時にはタービン温度が上昇し寿命の低下、最悪には火災にまで発展するなどきわめて深刻な問題で、ストール・スタグネーションを解消するには一度エンジンをカットし空中再始動を行わなければならなかった。
特に格闘戦闘中や高度が取れない離着陸において推力の急激な低下は文字通り命取りである。

F-15の設計は亜音速以下でのドッグファイトが重要視されていた、しかし本機の開発当初の主要目標の一つはマッハ3という超高速飛行が可能なMiG-25である。F-15にはマッハ2.5の速度が要求されており、これに答える為に胴体側面にユニークな長方形の可変エアインテークを持つ形状を採用している。エンジンの回転数や飛行速度に応じコンプレッサーに対し最適な空気流量を流入させるためのものである。
大まかにアイドルやタキシングのような空気流量を必要としない場合は左写真のようにインテークは下がり、離陸上昇中など高回転時には大量の空気流量を必要とするため右写真のようにインテークが上がり開放される。さらに低速時には相対的に空気流量が少ないためやや大きく開き、高速時には大量の空気が流入するためインテークは下がり減速圧縮を行う。高AOA飛行時にはインテークは下がりダクトに誘導するような形になる。
無論こうした調整はパイロットが行うものではなく、ハミルトンスタンダード社製コントローラーとナショナルウォーターリフト社製アクチュエーターにより完全自動的に稼働する。

機体に沿って流れてきた速度の遅い境界層の空気はラム圧低下の原因となるため、エアインテークの入り口付近の内壁にあけられた無数の小さな穴からこの空気を吸い出している。吸い出された空気は可変エアインテーク上部、側部、そしてダクト上部の穴から排出されることになる。
なお、コックピット後方はアビオニクスの放熱口で、左翼付け根にあるシルバーの蓋は空中給油口である。

どうやらストール・スタグネーションは可変インテークが原因の一つだったようである。改良されたものではあるがF100エンジンを搭載したF-16ではストール・スタグネーションは殆ど起きていなかった。
ただ、今日ではこうした問題は解決されており、プラットアンドホイットニー社は「F100系列のエンジンは6,900基以上が生産され、総計1600万飛行時間もの実績がある世界で最も安全で最も信頼できるエンジンである。」と宣伝している。
F-15の生産数がおよそ1500であるから、予備も含めおよそF100系の生産数の半数がF-15用であり、ほぼ同数が単発のF-16向けとなる。


【PW-220/220E PW-229 PW-232 F110】

F100系は幾つかの改良型が生産・装備されている。
F100-PW-220は現在最も広くF-15に用いられているエンジンで、推力は殆ど変わらないがF100の問題はほぼ解決し信頼性は桁違いに上昇した。

写真はF-15J/DJ向けのF100-IHI-220E(F100-PW-220E)で、DEECが採用された。スロットル操作をセントラルコンピューターを介しデジタル制御する、エンジンのフライバイワイヤとも言うべきDEECの採用により、F100-PW-220とF100-PW-220Eはカタログスペック上のエンジンの推力は殆ど変わらないが(むしろやや低下している)、自動的に最適な燃料供給・エンジン運転が可能になったため、事実上の推力は向上している。燃費も大幅に改善されている。無論信頼性・耐久性は更に向上した。

F100-PW-229は主にF-15Eストライクイーグルに装備される、F-15用エンジンとしては抜群に強力なエンジンである。ドライ推力は79.2kN、アフターバーナー推力は129.5kNと、F100-PW-100のドライ時65.2kN、アフターバーナー時105.9kNと比較しおよそ30%の性能向上を達成している。また、実用機ではないがF-15ACTIVE/IFCSにはF100-PW-229を原型としバランスビームノズルを可変型にした推力変更エンジンが搭載されている。

F100-PW-232は現在搭載している実用機は無いが、最高のF100系エンジンでF/A-22が装備するF119-PW-100エンジンで培われた技術をフィードバックしている。
静止推力はドライ時96kN、アフターバーナー時144.5kNと、F100-PW-100から40%もの性能向上を実現する。
F-15C/Dが同エンジンを搭載した場合はアフターバーナーを使用しないで超音速飛行が可能となり、いわゆるスーパークルーズ能力を得る。但し、F-15はF/A-22のように兵装を完全に内部に収容するわけではないため、恐らく兵装は制限されるであろう。なお、クリーン状態に限りF100-PW-100搭載機でもアフターバーナーを使用せず超音速飛行が可能であった。
F100-PW-232は現在シンガポールに売込み中のF-15Tに最初に搭載する事が見込まれている。

F-15にはF100系列ではない、コンパッチブルなF110系列エンジンを搭載することも可能である。
但し、F110系を搭載したF-15は僅かにF110-GE-129をサムスンテックウィンがライセンス生産したF110-STW-129だけであり、韓国向けF-15Kの40機(予定)に過ぎない。わが国のF-2が搭載するF110-IHI-129と全く同じエンジンである。


【各エンジンスペック一覧】

名称 PW-100 PW-220/E PW-229 PW-232
製造 プラットアンドホイットニー
石川島播磨重工(ライセンス)
プラットアンドホイットニー
静止推力 ドライ時 65.2kN 64.9kN 79.2kN 96kN
静止推力 A/B時 105.9kN 105.7kN 129.5kN 144.5kN
バイパス比 0.72 0.6 0.36 0.34
圧縮比 24.8 24.8 32 35
重量 1370kg 1467kg 1621kg 1860kg
主な装備機 A/B/C/D A/B/C/D/E C/D/E 搭載機無し

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f100pw2291.jpg - USAF